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イシノラボ/マスターズ店長の連載

第1弾 日本オーディオ史

第36回 Xバランス回路搭載アンプの製品化へ道のり

試作機の製作開始

回路構成が決まったところで、さっそく、試作機の製作にとりかかる必要があった。

幸い、この回路開発プロジェクトの一員であるT・T(私と同期入社)さんが担当してくれた。彼は、あっという間に作ってしまう迅速さもあり、すばらしいエンジニアと今でもそう思っている。試作機のグレードはどうしようかと考えたが、一応、プリメインアンプの907クラスにすることにした。この当時は、まだ、まだ、パワー競争が盛んな頃で、パワーは160W+160Wが出るようにした。

電源トランスはどうしようかと迷った。これまでのFシリーズは特殊なCI型トランスで、性能は良いのだが、コストが高いのが難点であった。

トロイダルトランスはレギュレーションに優れ、小電流時のリーケージフラックスが極小で、文句ないのだが、ヒアリングでは、“音が硬い”とか、“清澄さ”がイマイチという評価もあった。このあたりについては、トロイダルトランスメーカーに伝えてあったが、その原因とか、対策とかは見つからないようだった。EIトランスをSANSUIに納入しているメーカーから、トロイダルトランスのこのような性格を解明するような報告が非公式にあった。それは、音楽のような、複雑な電流が流れるとトロイダルトランスのリケージフラックスはEIトランスよりも大きくなるということだった。トランスの外部の動的電界強度を測定して分かってきたのであった。その改善方法は、巻線を極力揃えて巻くことにあった。トロイダルトランスは鉄心がドーナッツ状になっているので、きれいに巻くことは作業工数の増加を意味する。しかし、何とか、トロイダルトランスメーカーにお願いして、綺麗に巻いてもらうことにした。

オーディオアンプというのは、入力されたオーディオ信号によって、スピーカーに流す電流をコントロールする機械であるので、電源部の構成がもろに音質に影響するものと今でも痛感している。

さて、話を本題に戻そう。

2週間程度で、試作機ができ上がってきた。アンプの基本的な電気的性能,周波数特性,ひずみ,S/N比など、申し分なかった。心配していた出力のDC電位は対アース間では1Vくらいに変動することはあったが、スピーカー出力間は、バランスフィードバックが掛けられているので、DCオフセットはまったく問題なかった。

試作機のヒアリングテスト

ヒアリングテストをまず社内でおこなった。当時、SANSUIはJBLの輸入代理店であったし、我々もJBLを気に入っていた。ヒアリングはJBL 4320で聴いていた。

また、当時は、高価な4343が飛ぶように売れていたし、並行輸入でも相当売れたらしい。このように4343が売れたのは、確かに、そのサウンドはフレッシュであったし、また、熱筆をふるっていた故瀬川冬樹氏が、それこそ、寝食を忘れるくらい4343に傾倒し、いろいろ苦心されてすてきなサウンドを出していた。(4343は鳴らし方が難しいスピーカであった。)その経過をオーディオ誌に書かれて、大変な反響であった。

そのようなわけで、JBL4343は、競合オーディオ各社、オーディオ誌の試聴用、オーディオ部品メーカー各社がこぞって採用してくれた。

一方、SANSUI社内では、これまでの4320に加え、4343,4333Aが加わった。確かに、4320に比べ、これらに新型JBLスピーカは低音再生能力に優れ、高域の伸びも良くなっていた。

聴きにきたオーディオ評論家さんは、新型スピーカをヒアリング用の主力に切り替えるべきとアドバイスしてくれた。そのせいもあって、4320から、4333Aに切り替えるようにセットしてみた。

私は個人的に4320を所有していたが、4320はすでにJBLは販売を終了していたので、新型への移行は仕方ないという気になっていた。

4320の良さは軽々としたサウンドが魅力であった。それはウーファ振動系の軽さにあった。従って、重低音というべき帯域はそれほど出ないし、ハイエンドも2420のホーンドラーバーだけのシンプルな2ウエイであったから、高域もそこそこで、マニア的に見れば、やや欲求不満であったかも知れない。

確認のために4333Aを上司に聴かせた。上司は、すぐさま、“これは音が硬い、音楽が弾まない、音楽は生き生きと聴こえなければならない!”といい、再考を求められた。

確かに、4320以後のJBLスピーカーは、振動系を重くして、低域がより出るようになったが、そのサウンドは重くなっていた。さらに、キャビネットをこれまでより、厚いバーチクルボードを採用したので、そのサウンドはがっちりした傾向になってきていた。幸い、JBLスピーカはものすごく売れていたので、そのような指摘が出来ない雰囲気であった。

上司は、“4320で聴いてみる”と言ったので、4320に戻した。そして、この試作機を聴くと、“これはすばらしい!”と言った。続けて、“自分の家でも聴いてみたいので、持参してくれないか?”と。そこで、開発メンバーでもあるS・Sさん、T・Tさん、プロジェクトの重要メンバーでもあるT・Sさん達を伴って、試作アンプ等を車に積んで、夜、上司の家に伺った。

上司のリスニングスペースは16畳くらいのスペースがあり、響きの良い部屋で、家具もあまり置いていないので、音響空間は充分であった。 このとき、使用したスピーカは、当時発売されたばかりのSANSUI XL−900Cであった。このスピーカーの振動板はカーボンフィイバーの3重構造で、軽く、強く、しなやかで、これまでのSANSUIスピーカとは格段に改善されたスピーカシステムになっていた。そして、当時は開発されたばかりのCDがメインプログラムソースになっていた。

ほどよくアンプをエージングしたあとで、ヒアリングを開始した。クラシック、ボーカル、フュージョン、ジャズ、など、次々とかけていった。どの音源でもこれまでにない新鮮な響きがあった。特に、フージョンでのインストルメンタルでは抜群の切れ味を発揮した。また、バランスアンプのアイディアがひらめいた頃から、出てくるサウンドは重心が下がった、中低域の音階(特にピアノの左手部)が明確になるのではないかと期待していたが、そのとおりになった。また、決して、サウンドが詰まってこない、ほぐれた感じも満足であった。上司も大変満足し、“これなら、いけそうだ!”と言った。

そこで、我々が迷っていた回路部分をここで、決めようと思った。それは、この新回路では、電源トランスにセンタータップがなく、しかもグランドからフローテングになるので、フローテングする抵抗値でかなり、サウンド傾向が異なって聴こえるのだ。大きくすれば、弾む方向、小さくすれば、がっちりする方向に聴こえるのであった。

これは、通常のアンプ回路の電源部のシャント抵抗値もそのような傾向になることは知ってした。いろいろ、抵抗値を変化させ、聴いてみて、22kΩを±電源の両端からシャーシグランドに落とすことで、決定した。

上司は、“新型アンプの原器として、この試作品は封印!”と宣言し、この試作品にこれ以上の検討することをやめるように言明した。

わたしとしては、もう少し、抵抗値を下げて、パワー感とか、ダイナミック感を出そうと思ったが、しなやかさも重要なので、了承した。

この回路は、それから延々と継続され、SANSUIアンプの終焉を迎えるまで採用され続けるとは、そのときは思わなかったが、ある意味、アンプ回路の究極を実現できたような気がした。

Gサーキットのネーミングはどうするか?

新型回路の情報は関連部門に伝え、新型アンプの商品化計画を作成するとともに、このアンプのセールスポイントを表現するために、ネーミングが必要であった。

宣伝部、販売部、商品企画部、技術部、技術研究所のスタッフが集まって、協議した。

私は、当然、バランスという響きは絶対譲れなかった。“スーパー・バランス”“アルチメイトバランス”、とかいろいろ案が出た。現在でも、オーディオケーブルで活躍している宣伝部M・Tさん達が“Xバランス”がどうかという提案があった。一同、“それで良いだろう、ということになった。

宣伝部は広告戦略を練り始めた。搭載する新アンプはどのクラスまで、どうするか?そして、使用するパワートランジスタが倍の数になるので、回路部分のコストアップは避けられなかった。特に、元々、利益の薄いAU―607クラスにXバランス回路を搭載することは、無理そうであった。わたしは、搭載断念と言う意味のレポートを書いた。

しかし、開発担当役員からは売れ筋の607クラスもXバランス回路を搭載せよ、と言う指示が来た。新型607,707,907へのXバランス回路搭載は決定となった。どうやって、赤字にならないようにして、そして、そこそこ利益を出して、製品化するかがテーマとなった。当然、これまでの評判も失ってはならないことも絶対必要条件であった。

Xバランス回路の動作を考える

Xバランス回路を眺めていると、他にない特色として、次のようなことが挙げられる。

  1. 反転(インバート)型のバランスフィードバックを掛けたバランス回路。インバート回路は初段の定電流動作の影響を原理的に受けなく、低ひずみになるので非常に優れている。(JBLのSA600のアンプはいち早く採用していた。他のアンプメーカーはどういうわけか追随しなかった。わたしはずっとこのことが気になっていた。)
  2. Xバランス回路は3段増幅構成であり、3段目から、2組の回路に分かれて、バランス増幅するかたちとなる。このあたりが原価をかさむ原因にもなった。
  3. 電源はフローテイング構成なので、グランドにリップル分とか、ノイズが混入しない。
  4. 初段は1個のデュアルFETで構成されるので、初段のDCドリフトとか、ひずみのばらつきがない。これは通常のアンプのブリッジ接続では実現出来ない特徴でもある。
  5. ブリッジ構成なので、負荷インピーダンスは半分になるが、パワートランジスタは低い電圧で使えるので、電流リニアリティの良い領域で動作させることができた。

この度は、年末から、多忙で、なかなか書けず、やっと、本日、書けた状態です。お読みくださりありがとうございます。次回は、新回路を搭載した各プリメインアンプの開発経過等を記したいと思っています。


2009年 4月 4日掲載


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