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イシノラボ/マスターズ店長の連載

第1弾 日本オーディオ史

第44回 フラッグシップ プリアンプ C−2301の開発・製品化

ハイエンドオーディオにおけるサンスイのプリアンプとは、開発前夜

CDが登場した1982年頃から、サンスイのアンプにおいてやり残しているアンプは何だろうと思えば、パワーアンプB−2301/2201にマッチするプリアンプを製品化して、サンスイのセパレート・アンプとして整備することであった。
セパレート・アンプ、とりわけパワーアンプにオーディオ信号を送り込むプリアンプの役目は、パワーアンプに比べて地味であるし、その開発も劇的ではない。少しずつ積み上げて開発していかなければ、製品にならないことは自分なりに分かっていた。すなわち、大技を駆使しての開発はなく、じっくり取り組まなくてはならなかった。
また、ビジネス的にみれば、サンスイでのセパレート・アンプは売れてもプリメインアンプの売上金額には遠く及ばないことははじめから認識していた。さらに音楽再生メディアはCDが登場して、プリアンプの存在を脅かすものになりそうだった。

それに、ライバル会社アキュフェーズはセパレート・アンプが専門、DENONではPRA―2000,PRO−3000のコンビがあり、パイオニアではエクスクルーシブシリーズに高級パワーアンプ,プリアンプ,レコードプレーヤーもあったし、JVCも強力であった。
更に、海外モデルはセパレート・システムが基本であったから、マッキン,マークレビンソン等、強力モデルでいっぱいであった。

それでも社内の開発会議では、プリアンプの必要性を説いて何とか開発の承認をもらうように努力したが、国内販売部ではそれほど売れないと言うし、海外営業部は高額な日本製セパレート・アンプはまったく売れないと言う。
この頃のアメリカは技術力があって、アメリカ国民は自国製品の“BY AMERICAN”ということに誇りを持ち、他を寄せ付けないパワーを持っていた。
現在のアメリカは凋落し、軍事産業,ネット関係ソフト,金融工学(あぶく銭の砂上の楼閣作り)、それに、とうもろこし,小麦,牛肉くらいしか輸出できるものがない。
そのあとを追っているのがイギリスであり、さらに日本が続くであろうことは歴史が教えるところかも知れない。これは悲しいことである!

さて、とんだ脇道にそれたが、プリアンプの開発承認は何度かの会議の末、承認を貰った。
けれども、その条件は金型費を極力かけないこと、格好がよいこと、音質においてB−2301を組み合わせて最高の評価をとり、最低限の売上目標を達成することであった。

開発・設計のスタートと内容の検討

このプリアンプのモデル名は当然C−2301となった。開発・設計チームのメンバーは、工業デザインが大友さんであった。大友さんは、、AU−607からのアンプデザインを担当されていた方であり、現在は私と組んでMASTERSのアンプのデザインをやってくれている。
彼とあれこれ話し合ったりスケッチを描いてみたりしてまとまってきたのは、フロントパネルは輝くが派手にはならないグロッシーなフォルムを表現したいということである。そうなると、マッキントッシュが採用しているガラス製のパネルが参考に浮上してきた。しかし、フロントパネル全体をガラスにするのはあまりいただけなかった。そこで、下半分をアルミパネル、上半分をブラック・スモークガラスにしようということになった。また、操作系のレイアウトは、いろいろ悩んだ末、プリアンプの両脇に入力セレクタ、マスターボリウムを両脇に配置することにした。
そのほかのサブ的な切換スイッチは、フロントパネル下半分に配置することにした。

 

さて、C2301のプリアンプとしてのコンセプトを整理してみた。

  1. B−2301と組みあわせて最高のパーフォーマンスを発揮すること。
  2. それには、パワーアンプとはバランス伝送であり、プリアンプもバランス増幅とする。
  3. CDが今後主流になるであろうが、アナログ・レコード再生において、最高レベルの内容としたい。
    それには、MCカートリッジ対応には、ハイインピーダンス(EMT TSD15,DENON103など)とローインピーダンス(オルトフォン SPUなど)にそれぞれ専用のMCトランスを搭載しよう。
    フォノEQアンプは最高級レベルのダイアモンド差動回路を採用する。
  4. ライン入力対応はバランス入力、出力対応としてラインアンプも最高級ダイアモンド差動回路を採用する。
  5. 全体の構造は充分強度の取れたものとし、振動対策をおこなう。
  6. 電源部は強力で、当然、L/R別電源方式を採用する。
  7. 切換スイッチは最適なところで切り替えるべきで、その頃開発されたアルプスのリモートロータリースイッチを採用する。(このスイッチは、40cmくらい離れても延長操作ベルトで最適の場所で信号切換が出来るものであった。)
  8. さらに思い切った機能として、プリアンプのラインアンプをジャンプして出力することも可能とした。もし、ジャンプしたほうが好ましいサウンドが出るとしたら、このC−2301の存在価値はなくなるものであった。これは異論も出たが、ジャンプしたサウンドはピュアなものではあるが、サウンドの重心が上つき傾向になることは長年の経験で認識していたので、心配せず進行させた。
  9. 採用する部品は極力最高級グレードにする。この採用には、部品開発者でもあったオーディオ評論家の金子英男さんのアドバイスも取り入れることに決めていた。
設計進行における検討の経過と結論
 

そのようなコンセプトで、今度は機構設計段階になった。機構設計者のNさんは、パイオニアを経て東京都職員になったが、オーディオ好きから退職してサンスイに入社した、筋金入りの士気高いエンジニアであった。
Nさんはいろいろ構造案を出してくれた。その中でアンプ基板ユニットは上下2段構造がどうかと提案した。Lchは上、Rchは下、真ん中にシャーシのメインの板が通る。
そうすることに賛成したが、下の基板ユニットは重力がLchと逆にかかる。その点について、Nさんは、基板ユニットをリジットは板で抑えて振動等を防止すれば、重力の影響は無視できるだろうと言った。わたしは信じて賛同した。
Nさんは、金型費がかけられないことを知って、振動防止プレートを建築用押し出し材の中から適切な形状を選び、アルマイト加工して価値感をあげ、さらにアンプ基板の上をシールド鋼板で覆って、振動防止とアンプ内温度変化を極力少なくできるメリットもありそうであった。
このアイディアで、C−2301の基本的なレイアウトが決まった。

次は回路であった。ラインアンプはダイアモンド差動回路として、バランス回路のコールド側はどうするかを迷った。
今なら躊躇なくXバランス回路を改良して、ラインアンプまでバランス増幅回路にしたことであろう。1982年当時は、いろいろ考えすぎてしまった。
結局、非反転アンプでホット側を出力し、反転アンプでコールド側を出力させることにした。こうすることによって入力インピーダンスの低下が避けられたが、コールド側が1段多くの増幅になるのでしっくりしない感じが当時もあったが、電気的性能はまったく問題なかった。
電気設計を担当したY氏はベテランであり、その堅実な仕事ぶりには定評があり、また、オーディオ好きであり、私とは大変気が合ったからスムーズに仕事は進んだ。
ひととおり試作器が出来上がり、外観を上司に見せると良い評価であった。私としても、価値感がそれなりにあると感じた。さすが、大友さんのデザインセンスは素晴らしい。アンプを開けると、内部も整然と美しく、アンプユニットは振動防止プレートでしっかり固定されている姿は、Nさんのセンスと腕前の良さにあった。

いよいよ音が出る

そして、音を出すとかなり品位の良いサウンドが出てきた。部品は、抵抗はリケンのRMA,RMGを採用したし、コンデンサはΛII、ケミコンも最上級グレードを搭載した。MCトランスはタムラ製作所のY.Uさんが頑張ってくれ、このサウンドもなかなかであった。そうようなプリアンプをさらにグレードを上げていくことは、私にはやや気が重かった。プリアンプは負荷がパワーアンプであるので、スピーカからの逆起電力もないし、その改善作業は劇的変化ではなく、少しずつ積み上げていく必要があった。いわゆる、こつこつ地道な努力が必要であった。
当時のCDは音が悪く、あまりヒアリングテストには使えなかった。
そのような時期に評論家の金子さん宅を深夜訪問して、最新のオーディオ部品の試作品を試したりして、段々と納得するサウンドになってきた。
けれども、トップブランドのアキュフェーズとも違うし、マッキントッシュのコントロールアンプとはかなり異なった音色であった。
また、C−2301は、バランス伝送したときに本当の威力を発揮し、サウンドの重心もしっかり下がってきた。このような経過を経て完成が近くなった。
当時、トップオーディオ雑誌であった“ラジオ技術”の金井社長には、特に、“サウンドジャンプ機能を設置したことは勇気あることだ”と面白い観点から誉められた。確かに、ジャンプするとピュアになるかも知れないが、サウンドに“こく”が薄れてくるのははっきり分かった。各評論家さん宅を訪問してフィールド・テストをおこなって、充分このプリアンプはハイエンド・オーディオアンプとして通用することは自覚できた。
このプリアンプの販売によって、サンスイのアンプはAU−607/707から再スタートしてここまで到達した安堵の気持ちと、次はどうするか!との感慨も浮かんできた。

次回は、話題をビジネス分野から述べてみたいと思う。オーディオビジネスはそうは儲かる仕事ではないことと、海外になかなか通用しなかったことにも触れてみよう。


2010年10月26日掲載


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